『もはや書けなかった男』
フランソワ・マトゥロン 市田良彦訳 航思社 2018
アルチュセールの時代に私が生きていたなら、このテキストはおろか、なにも書くことはできなかったでしょう。だから私は神々と両親に、私を現代に、アルチュセールとベンヤミンが知らなかったこの時代に存在させてくれたことに感謝しています。コンピュータとその派生物の情報技術の時代です。『パリ―一九世紀の首都』のなかでベンヤミンは、パリの変容と市場の幻影についてこんなことを書いています。「商品生産社会を取り巻くきらめきと栄光、そしてこの社会の幻覚的安全感は、脅威から保護されているわけではない」。認知資本主義の幻影も同様に幻覚的であり、脅威から保護されていません。最低限、それだけは言える! とはいえ私の活動能力、私のコナトゥスは、認知資本主義の現状によかれあしかれ結びついている。目下のところは、よいようにです。(p28)