模倣と権力の経済学

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『模倣と権力の経済学―貨幣の価値を変えよ〈思想史篇〉
 大黒弘慈 岩波書店 2015


 ニセモノがホンモノの顔をしてまかり通っていることを公衆が承知の上で騙されているあいだはよいが、ホンモノが市場で正当に評価されないのはたしかに引き合わない。しかし遠からず「鍍金」ははがれ、グレシャムの法則はハイエクの原理へと切り替わるであろう。むしろわれわれが肝に銘ずるべきは、ホンモノ(良貨)と思われているものもかつては何かのニセモノ(悪貨)だったのであり、ニセモノ(悪貨)だったものもやがてはホンモノ(良貨)に育っていくという側面である。逆に、ニセモノ(悪貨)をホンモノ(良貨)から截然と切り離し、本物の純化を図ろうとする方向にこそ、不健全な「排除」の論理へと赴く芽を感知しないわけにはいかない。(p292-3)