ポータブル文学小史

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 『ポータブル文学小史』
 エンリーケ・ビラ=マタス 木村榮一訳 平凡社 2011


 ヴァルター・ベンヤミンもマルセル・デュシャンとよく似た精神の持主だった。二人はともに放浪者であり、いつも旅をしていたし、芸術の世界から放逐されていて、しかもさまざまな物(つまり情熱のことなのだが)、それをいっぱいため込んだコレクターでもあった。二人はまた、ミニチュア化するということはポータブルなものにするということであり、放浪者、もしくは亡命者にとってそうすることが物を所有する理想的な形態であることを知っていた。しかし、ミニチュア化するということは隠すことでもある。たとえば、デュシャンは極端に小さい物、つまりエンブレムや手稿、アナグラムといった解読する必要のある物につねに惹かれていた。彼にとってミニチュア化するというのは役に立たないものに変えるということを意味していた。(p14)