はるかなる視線1

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『はるかなる視線1』
 クロード・レヴィ=ストロース 三保元訳 みすず書房 1986

 現代世界には、ただ伝統の支配に隷属し、慣習の隅々に到るまで、神々や祖先が歴史のはじめに創ったままを維持する以外になんの野心ももたない、とされている社会がある。だが現代の人間に民族学が与え得る教訓があるとするならば、それはこのような社会が研究者にとって、慣習、信仰、芸術の形態など人間精神の無限の創造への能力の証左の宝庫であるという点であろう。自由が拘束を退け、克服するものであれば、そして、拘束に欠陥や弱点があって、創造をさそうのであれば、自由と拘束は対立しているのではなく支え合っていることになる。自由は障害を拒否し、教育、社会生活、芸術の開花は自発性の全能への信仰なしにはあり得ないとする現代の幻想、今日の西欧の危機の原因ではないにしても、その重要な側面と考えられる幻想を払拭できるのは、自由と拘束のこの関係以外にはない。(xi)