精神分析と現実界

st

『精神分析と現実界―フロイト/ラカンの根本問題
 立木康介 人文書院 2007


 私たちは、けっしてうまく話せないにもかかわらず、なぜ話すことをやめないのか。この問いは、ひとり話存在にとってのみ、すなわち言語の構造の内部でのみ、可能になる問いである。だが、それにたいして、話存在はいかなるシニフィアンの比(組み合わせ)によっても答えることができない。話存在にできることといえば、せいぜい、その答えの不在を抱えながら、さらに多くのシニフィアンを費やしてそれについて話し続けることくらいしかない。「話すことの原因」は、このように、そのものとしてはけっして象徴界に顕現することがないが、しかしそのなかに、すなわち、象徴界の材料を用いて紡がれる私たちの話のなかに、つねに帰結を持ち続けるのだ。(p7-8)