神学・政治論(上)

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 『神学・政治論(上)』
 スピノザ 吉田量彦訳 光文社 2014

 信じられないことや、つかみどころのないことが内容になっている書物。あるいは、とてもあやふやな用語を使って書かれた書物。もし書いた人も、書かれた時代も、どういう機会に書かれたかもわからないままそういう書物を読むならば、その真意をもっと詳しく突き止めようとしても無駄な努力に終わるだろう。そうしたことすべてが分からないままでは、著者が何を狙っていたのか、あるいは何を狙いにできたのか、決して知ることができないからだ。これに対し、そうしたことがうまく分かっていれば、わたしたちは自分自身の思考をうまく導いて、どんな先入見にもとらわれなくなるだろう。つまり著者に対しても、また著者が書く対象とした人物に対しても、過大評価や過小評価に流れることなく、ただ適切なことだけを認めるようになるだろう。また著者が内心で狙っていたと思われることや、書いた時代や機会のせいで取り上げざるをえなかったことだけに的を絞って考察できるようになるだろう。これは誰の目にも明らかだと思う。(p335-6)