実在論と科学の目的

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『実在論と科学の目的 上
 ―W.W.バートリー三世編『科学的発見の論理へのポストスクリプト』より
 カール・R・ポパー 小河原誠・蔭山泰之・篠崎研二訳 岩波書店 2002

 物体が実在することは、ほとんどすべての常識的な語り口において、暗黙のうちに前提されている。そしてそこでは、今度は、自然法則の存在が含意されている。だから、科学上のあらゆる発言は実在論を含意している。このように論じれば、真なる自然法則の存在を信じることは、立証可能でも反証可能でもなく、それゆえ形而上学的だとしても、合理的となる。これまでヒュームの懐疑主義と彼の後継者たちの懐疑主義について論じたが、形而上学的実在論を述べる議論に対する重大な反論は、なにも見出すことはできなかった。ただ、まことしやかなドグマが見つかっただけである―それは、私の心(ないしは言語)にあるものにはなんであれ、わたくしの感覚にあらかじめあったものだけを反映できるというドグマである。そして、その理論を検討する過程において、ヒュームが率直に矛盾していると描写したようなものも含めて、一連の意図されなかった帰結、受け容れられない帰結さえ見出したのであった。(p182)